マドンナリリーの花言葉
「本来エミーリアが君を連れていければいいんだが、……彼女には今懐妊の兆しがあってな。無理をさせたくはないんだ。女性の同伴者がいないのは多少心配ではあるが、俺とディルクとローゼで行くことになるだろう」
「そうですか」
「会わせるだけだ。そう心配そうな顔をするな。クラウス様とギュンター殿にも昨日のうちに報告を出してある」
すっかり青ざめているローゼにフリードが笑いかけた時、屋敷の玄関付近から騒がしい音が聞こえてくる。
バタバタと足音を立てて、執事のアントン入ってきた。
「ふ、フリード様。お客様です」
「誰だ? 今日は訪問の予定はなかったはずだが」
「それが……」
アントンは困り果てている。それもそのはず、彼の後ろからひょっこりと顔を出したのは、美しい金髪に王家特有の緑色の瞳を持つ男――第二王子クラウスだ。
「く、クラウス様っ?」
「やあ、フリード殿。連絡をありがとう。返事を出すより来た方が早いかと思ってね」
「ですが。……ご公務は大丈夫なんですか」
「ああ、大丈夫。下手に今王宮にいると父上がうるさくてね。口実を付けてギュンターのところに逃げようと思っていたタイミングだったからちょうど良かった」
クラウスはつかつかと室内に入ってくる。彼の従者と思しき男が二名、困り果てたように後ろで立ち尽くしていた。
「お前たちは下がっていていいよ」
「はあ、ですが」
「ギュンターがくるはずなんだ。玄関で出迎えていてくれるかな?」
適当な理由をつけて、ふたりを一掃したクラウスは、ソファに向かいどかりと腰を落とす。