マドンナリリーの花言葉
「アンドロシュ子爵にはいつ行くと返事をしたんだい?」
「あちらはいつでもいいというお話だったので、ローゼと話をして……今日返事を出そうと思っていました」
「じゃあ、すぐ行こう。あまり時間を与えると彼に準備期間を与えてしまう。先ぶれを出して、後を追おう」
「しかし……」
「時間をかけてもいいことなどないよ。それに俺もね、早くパウラ夫人とやらに会いたいんでね」
「……俺も?」
ディルクが、クラウスの言葉尻を捕まえる。
「そう。俺も行く」
「それはさすがに……」
「変装していけばバレないよ。誰も第二王子が直々にやってくるなんて思わないだろう?」
「しかし御身に何か危険があれば……」
「おや、君は相当腕がたつとフリード殿から聞いているよ? だったら警護する人間が増えたところで問題ないだろう」
ディルクは思わずフリードを睨む。
フリードのほうは困り果てたように「まあ、たしかに言いましたが……」と頭をかく。
「さあさあ、さっさと先ぶれを出してくれ、フリード殿。俺だってあまり長く王宮を留守にするわけにいかないんだから」
「……でしたら、最初から計画を立ててくださいよ」
フリードは軽く反論したが、王子のわがままには誰も敵うはずがないのだ。
フリードは『これから伺います』という内容の手紙を先ぶれに預け、変装したクラウスとディルクとローゼとともに馬車に乗り込んだ。
「エミーリア嬢、いずれギュンターも追って来るはずだ。子爵家へ行ったと伝えてくれたまえ」
突然のことに呆気にとられたままのエミーリアに伝言を残し、一行はアンドロシュ子爵領へと旅立ったのだ。