マドンナリリーの花言葉


 アンドロシュ子爵の屋敷は、クレムラート邸から馬車で二時間程度北に向かった小高い丘に位置している。一番近い町からは馬車で二十分。賑やかで活気があった町に比べれば静かで寒々しい雰囲気のある屋敷だ。道なりに塀が続いている。

クレムラート家の馬車が近づくと、門番は両側から開門した。
どうやら本邸側の門だったらしく、広い庭を横目に見ながら、本邸の玄関前へとたどり着いた。
まずはディルクが下りて足場の確認をし、その後フリードたちが下りるのを手伝った。


「これはこれは、クレムラート伯爵。ようこそ、こんな辺境地まで」


六十を過ぎた子爵は、杖をつきながら玄関まで出迎えにきた。特に足が悪いようには見えない足取りではあったが、重い体を支えるために杖が必要なのだろう。


「アンドロシュ子爵ですか? 初めまして、フリード=クレムラートです」

「お若い当主だな。先々代の伯爵には何度か会ったことがあるんだが」

「お目にかかれて光栄です」


もちろん社交辞令だ。
フリードの後ろから下りるのは、先日の舞踏会と同じドレスを身に着けたローゼ。さらに従者然とした男が令嬢の付き添いとばかりに横に立つ。変装したクラウスだ。

ただでさえ目立つ容姿のクラウスを変装させるのにはかなりの時間を食った。ダークブラウンの長髪のかつらを用意し、美しい金髪と王家特有の緑色の瞳をなんとか前髪で隠したのだ。

もはや老人という印象のアンドロシュ子爵はローゼを見るなり杖を取り落とし、息を飲んだ。

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