マドンナリリーの花言葉

「いや、これはたしかにパウラにそっくりだ」

「ローゼ=シュテルンと申します」


シュテルンという姓は、ただの農家の娘であるとバレないようにとの配慮から考えた偽名だ。ローゼは所作に自信がないのであまり話さずただドレスの裾を掴んで礼をする。


「クレムラート伯爵、これは間違いない。この子はうちの娘だ。ぜひとも引き取らせて頂きたい」


感極まった様子の子爵をフリードは鼻白んだ気分で見つめた。


「失礼ですが子爵。彼女は十七歳で、もう結婚が決まっております。今日連れてきたのは顔だけでもお見せしようと思っただけで、彼女を手放すつもりはありません」

「いや、しかし、我々だって死んだと思っていた娘が生きていたのですぞ! せめて数年でもいい、一緒に暮らす時間を我々に与えてくださってもいいではありませんか!」


芝居がかった口調にローゼは恐怖さえ感じる。初老の男は本当に泣きそうな瞳でローゼを見てくるのだ。数々の悪事を行ってきたと聞かされていてさえ、この男が本気で娘との再会を喜んでいるようにも見える。
雰囲気に飲まれそうになっているローゼを守るようにディルクが前に立った。


「失礼、アンドロシュ子爵。今回は奥方様にローゼを会わせるためにお伺いしたのです。引き取る云々の話をなさるのならば私たちは帰らせていただきますが」


ところが、ディルクの顔を確認した途端、子爵は眉を吊り上げた。


「君は、……もしかしてドーレ家の人間ではないのかな?」

「ええ。ディルク=ドーレと申します」

「はっ、ドーレ男爵の息子だな? まさか知らないとは言わないだろうな、君の父親が私の妻にしたことを。それに、……私は知っているんだぞ?」

「何をですか?」

「君はパウラと密会しているだろう。親子そろって私の妻をたぶらかすとはとんだ恥さらしだ」

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