マドンナリリーの花言葉
「ご不在中に以前より不足していたメイドを増やしました。ローゼ=ブルーメンです。ほら、挨拶を」
小突かれて、我に返って一歩前に出る。
その時、領主の傍に付き従う彼が驚いたように自分を凝視するのを、ローゼは見逃さなかった。
なにかおかしかったかしら、と話す前から緊張が走る。必死に絞り出した声は震えていた。
「ロ、ローゼ=ブルーメンです。一生懸命頑張りますので、どっ、どうぞよろしくお願いいたします」
どんどん声が小さくなって俯いてしまったローゼに、伯爵夫人であるエミーリアが興味を抱いた。
「俯かなくていいのよ。あなた、とても綺麗」
ローゼは田舎育ちだが、近所でも評判の美しい娘だった。
ピンクがかった金髪に、整った目鼻立ち。おちょぼ口の唇は何を塗っているわけでもないのに赤く艶がある。
農作業で肌はそこそこ焼けていたが、それさえ除けば人形のような外見だった。
どこか田舎臭い両親とはあまり似ていないが、中身は父母の影響を受けていて素朴だ。仕事には一生懸命で真面目、しかし、夢見がちでどこか地に足がついていない少女――それがローゼに対する周りの認識だった。
エミーリアが興味津々で近づいてくることに驚きつつ、粗相があってはいけないとローゼは必至で頭を回転させる。
奥様に挨拶するときは目を見てはいけないのだったかしら。ええとええと……。
悩んでいるうちにエミーリアのほうがローゼの手をとって持ち上げた。
「あなたお年は?」
「じゅ、十七です」
「では私の二つ下になるのね。年も近いし仲良くしましょう?」
ローゼは途方に暮れてしまった。
奥方は隣のベルンシュタイン地方伯の娘で、生粋の貴族だ。てっきりもっと気位の高い人だと思っていたので、こんなにフレンドリーに話しかけられるとは思わなかった。嬉しいけれど、いつ言葉を崩して失礼をしてしまうかと思うと何も話せない。