マドンナリリーの花言葉
一方、両手を震わせたまま呆然としているパウラのもとへは、クラウスが近寄る。
「わ、私……」
見上げた美しい夫人にクラウスは恭しく手を差し出した。
「よくできました、お嬢さん。守られるだけの女でないところも実に俺好みだ」
パウラはバツが悪そうな顔でクラウスを見上げた。
「あなた、……気付いていたのね、私が……見えているって」
「ええ。あなたは目が見えている。反応をじっくり見ていれば誰でもわかるはずだ。視界でしか判別できないときに君はちゃんと驚きを示している」
「だから、私に剣をよこしたのね」
「そう。あの時点でアンドロシュ子爵と用心棒たちから盲点になっていたのは君だけだ。……娘を守るだけの気概がある方なら、きっと突破口を開いてくれると信じていたからね」
クラウスは、血で濡れたその手の甲にキスをした。
「偉大なるあなたの手へ賛辞を」
「クラウス様」
「今まで大変だったでしょう。しかし、もう大丈夫。クレムラート伯爵の有能な部下が、あなたを悪夢から連れ去ってくれますよ」
クラウスが振り返ったとき、ディルクは屈強な剣士の最後の一人を、床に沈ませたところだった。
ふう、と額に浮かんだ汗を拭いたところで、ローゼが泣きながらかけてくる。
「ディルク! 無事ですか?」
「ああ、君こそそんなに泣いて……」
ディルクは返り血を拭うよりも先にローゼの目尻を拭った。血がついてしまい、かえって汚してしまったことに焦っているとローゼがその手を胸に抱きしめる。
「無事で良かった……! あなたが死んだら私も正気でいられません」
「……俺は大丈夫だよ。それより、……君に泣かれるほうが困る」
泣きじゃくるローゼを胸に抱き、困った表情をフリードに向ける。