マドンナリリーの花言葉
「家名には傷がつくんだ。継承したところであまりいいことはないと思うよ。君も頑張りどころだ。特に年頃のご令嬢の結婚では苦労するだろう」
「あ……」
「それが君が父親を放置し続けた罰だと思うんだね。……それから、ディルク。ドーレ男爵位は復活させようと思う。根回しはもうしてあるから、今回の件からあの九年前の事故が男爵のせいではないと証明できれば、あっさり通ると思うよ」
クラウスは朗らかに言ったが、ディルクは素直に喜べなかった。困ったようにローゼと顔を見合わせた。
「俺……私には爵位はベつに必要ありません。今まで通りにフリード様に仕えていられれば別に問題はありませんし、ローゼだって……」
異を唱えようとしたディルクにギュンターが口を挟む。
「まあそう言うなよ。ドーレ男爵位を復活させるのはクラウス自身のためだよ。そうだろ?」
「クラウス様のため?」
「そう。クラウスは、今後パウラ殿の後ろ盾となってくれる貴族を探しているのさ。ドーレ男爵家だけなら家柄としては弱いが、後ろにクレムラート伯爵家が控えている。クラウスはね、ディルク君とローゼ嬢をさっさと結婚させて、パウラ殿をドーレ男爵家の縁戚という立場にしたいんだよ」
さらりと言ったギュンターをクラウスが睨みつける。
「全く。ギュンターは頭が切れるのはいいが、余計な口を挟みすぎだ」
ため息とともに立ち上がり、クラウスはパウラの前に立って一礼した。
「パウラ殿」
「はい」
パウラは、エーリヒの妻のドレスを借りて、血の付いたドレスから着替えていた。
年相応のシックなブラウンのドレスだ。大人の女性らしい美しさと世間を良く知らぬまま大人になったための無垢さが混ざる不思議な色気を醸し出していた。