マドンナリリーの花言葉
「ローゼ嬢にはディルク君がいるし。俺は国民を喜ばすために結婚したいんではない。何より彼女では俺の心が動かないんだよね。……同じ顔だと君は一口に言うが、君たちは全然違う。俺が欲しいのは、美しく気品があり、俺の無茶に冷静についてきてくれるような女性なんだ。それはローゼ嬢では無理だよ。なぁ?」
同意を求められてディルクは苦笑しつつ頷く。
「まあそうでしょうね。思っていることがそのまま顔に出てしまうような娘です。下級貴族の奥方程度ならともかく、王家の嫁には向いていないかと」
「お、お、お、王子様の妻なんて絶対無理ですっ。私はただの農家の娘ですものっ」
慌てふためくローゼをディルクがなだめるように肩を抱く。
呆れたようにそれを見つめるパウラに、クラウスがさらにひとり悦に入った様子で続ける。
「大うつけの第二王子が、ようやく結婚すると言っているんだ。父上は多少のわがままは聞いてくれると思うよ。
なによりほかの女で頷く気が俺にない。父は仕方なく了承するだろう。なあに、人に知られてまずいことは隠せばいい。没落した子爵家の娘だというところは他の上級貴族から難が出るだろうが、ドーレ男爵家ひいてはクレムラート伯爵家が後ろ盾となるとなれば奴らを黙らせることも可能だ。それにね、最初の噂がどれほど悪かろうとも、結局人は結果でその人の人生を見るんだ。今まで不幸な身の上だったが、第二王子に見いだされ、王家の嫁として国に尽くした。……こう言われるような生き方を君がすればいい。……後は君の気持ちだけだよ、パウラ殿。俺の手を取るか、かつて君が恋した男を探しに行くか。どちらかを選ぶといい」
パウラは一瞬逡巡すると、クラウスの手に手を掛けながら、ディルクを振り向いた。