マドンナリリーの花言葉
「そうじゃないのよ。私は罪深い女なの。……皆さんに聞いてほしい話があるわ。それによっては、クラウス様も私を娶ろうなどと思わなくなるかもしれない。……聞いてもらえますか?」
「いいよ。聞こう」
クラウスは彼女の手を握ったまま促す。パウラはまず一度、大きく頭を下げた。
「まず、今更ベルンハルトのもとに行こうとは思っていません。彼も私を迎え入れようとは思っていないでしょう。私たちの間には、時間がたちすぎたの」
あっさりとパウラは言った。そこに未練は感じられない。彼女の心は別のものを見つめているのだ。
「気持ちはすでに九年前に変わってしまったの。優しく、私を気遣ってくれたドーレ男爵に、私は恋をした。彼がここから逃がしてくれると言ってくれて、嬉しかったわ。だけど、……ドーレ男爵は私に、べルンハルトのもとへ行くようにと言ったのよ。……馬車の中で、口論になったわ。『私はドーレ男爵がいい、私と一緒に逃げてください』と懇願して。……でも男爵は『家族が大事だ』と応じてはくださらなかったの。結局その時に、馬を興奮させてしまって、近づいてきていたクレムラート伯爵様の馬車とぶつかったの。九年前にクレムラート伯爵が亡くなったのは私のせい。ドーレ男爵が死んだのはそのせいなんでしょう? だったら、私が彼を殺したようなものよ」
ディルクは静かに首を振った。
「それにはアンドロシュ子爵の計略も絡んでいたし、父の死は父の行動の結果です。それに対してあなたを責めるつもりは、俺にはありません」
「ありがとう。でも私、ずっとあなたを騙していた。……目が見えないと偽って、あなたにドーレ男爵の面影を重ねていたの」
「目は本当に見えているんですか?」