マドンナリリーの花言葉


 クレムラート家の屋敷に落ち着いたのは、結局翌日になってからだ。途中の街で宿に泊まり、ギュンターとクラウスとはそこで別れた。


「必ず迎えに行くから、しばらくはフリード殿の屋敷で待っていてくれたまえ」


クラウスは、宿屋での夜を無駄にはしなかった。パウラを呼び出し、さんざん愛を語りつくしたのだ。
夜半を過ぎてから部屋に戻ってきたパウラは、何度も寝返りとため息をついてローゼの眠りを妨げた。

そして見送る際には、彼からの親愛のキスを素直に受けるくらいにふたりの仲は進展していたのだ。


そのまま、フリードとディルク、ローゼにパウラはクレムラート邸へと戻った。


「大変だったわね。ようこそパウラ様。エミーリアと申します。こんな格好で失礼いたしますわ」

「いいえ、ご懐妊だと伺いました。大変な折に申し訳ありませんが、お世話になります」


エミーリアに温かく迎えられ、パウラはホッとしたように表情を和ませる。

二階にある客室のひとつがパウラに与えられ、使用人には没落した子爵家の生き残りの女性を預かったと伝えられた。彼女がローゼにそっくりなので、ローゼも貴族の血筋なのだろうという認識が使用人の中に広まった。それ以来、ローゼに対する使用人の間のやっかみもなりをひそめている。


パウラはエミーリアが妊娠中であるのを知ると、自身の時の経験を活かし、かいがいしく世話を焼いた。
腰の痛みなどといった、妊娠時のちょっとした負担に気付くのも、メラニーやローゼよりもパウラのほうが先だった。

一方クラウスからはパウラ宛に毎日のように贈り物が届く。
身一つの移動では不便だろうと、服飾品が主なのだが、その中に下着まではいっていた時にはさすがのパウラも呆れた表情をしていた。
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