マドンナリリーの花言葉
「悪い、困らせるつもりじゃない。……それより、話があるんだ」
「話……ですか?」
「色々とクラウス様がうるさくてね。誤解されないようにちゃんと説明しておきたい」
「なにをですか」
「俺たちの結婚の話だ」
言われて、再びローゼの頬が染まる。
たしかに以前にも求婚はされているが、事件がらみだったのでローゼにはいまいち実感が湧かない。あれはすべて虚言だったと言われてもおとなしく引き下がってしまいそうだ。
「クラウス様にせっつかれている。男爵位はすぐに復活できるから、その前にさっさと結婚しておけ、とね。……俺としては別に、急がせるつもりはなかった。子爵の件も片付いたし、君を守るためという口実もなくなったからな。焦って結婚を迫るのは、ずるいような気がしている。君は俺を好きだと言ってくれたが、貴族の妻になる覚悟はしていなかっただろうし」
ディルクは言葉をゆっくり選んでいるようだ。
「だが……無邪気に俺を見つめてくる君の傍で、これ以上紳士を貫く自信もない」
額にこつん、とディルクの額がぶつかる。派手ではないが整った顔。ダークブラウンの瞳が至近距離でローゼを見つめる。
「ローゼ」
「はいっ」
ローゼは、心臓が暴れすぎてどうにかなってしまいそうだった。ディルクから注がれる視線は艶めいていて、見つられていると思うだけでとろけてしまいそうだ。
ディルクの手が、ローゼの肩に触れる。ぴくん、と体を揺らすと、その手はゆっくり腕に向かって下りていく。心臓の音が激しすぎて、呼吸の仕方が分からなくなりそうだった。喉が熱くて、呼吸が苦しい。