マドンナリリーの花言葉
「俺の妻になってほしい。……君にとっては簡単じゃない。男爵位とはいえ、屋敷を保有し土地を管理するんだ。女主人にもある程度の役割も責任もある。それでも俺と一緒に歩んでほしい」
ローゼには想像もつかない仕事だ。改めて言われると尻込みする気持ちも湧いてくる。
(雰囲気だけで流してくれれば、もっと気軽に彼の胸に飛び込めるのに)
そうは思ったが、最初に覚悟を問うところも、真面目なディルクらしいと言えばそうだ。そしてローゼはそんな彼をいとおしいと思ったのだ。
「私、……至らないところだらけですけど、頑張ります。でもきっと失敗もするから、……傍で助けてくださいね?」
彼のシャツを掴み、震える声で懇願する。ディルクははーっと深いため息をつき、「どうしました?」と慌てるローゼを見て、笑い出した。
「はは。……ホッとした。貴族の妻になるなんて嫌だと言われるかと思っていた」
「え? やだ、そんなわけない。だって私、最初からずっとあなたが好きなのに」
「最初から?」
「一目ぼれなんです。初めてお屋敷にきて紹介されたときからずっと」
「はは。それは初耳だ」
「嘘。私すぐに告白したじゃないですか。ディルクが全然振り向いてくれなかっただけ……」
鼻がぶつかったと思ったら、続けて唇が重ねられた。軽いキスが二回、その後、ゆっくり舌が入り込んでローゼの口内を探っていく。
「……ん、あ」
すぐに甘えた声を出すローゼに、ディルクは苦笑して体を離す。
「本当に反応が素直だな。冷静でいるのが難しくなる」
「だって。……嬉しいんですもん」
唇を指の腹で撫でながら恥じらうローゼの可愛らしさは、筆舌に尽くしがたかった。
今日は結婚の意思を確認しに来ただけだ。ディルクは彼女の理想の夫になりたいと願っていたし、そのためには紳士であらねばならないと思っていた。自らにそう言い聞かせても、今回ばかりは理性が負けそうだった。