マドンナリリーの花言葉
翌朝、ローゼが目覚めると、ディルクは困った顔で頬杖をつきながら彼女を見つめていた。
「……悪い。神への誓いの前に君を奪ってしまった」
「やだ。謝らないでください。私、嬉しかったですし」
ローゼは後悔などしていない。女は神よりも夫に誓うのだ。一生をともに生きると。
「だが君の理想とは違っただろう?」
「いいえ? というか、私の理想って……?」
ディルクは心底困ったという風に頭を抱える。
「ロマンス小説のヒーローとやらは、こんな風に愛する人を求めたりはしないんだろう?」
ローゼは目をぱちくりさせる。そしてすぐに思い当たって笑ってしまう。少し前に『ロマンス小説のような恋をするのが夢でした』といったことがある。ディルクはそれを覚えていてくれたのだ。
「あはは。ロマンス小説のヒーローも一緒ですよ。愛する人を熱烈に求めてくださるんです。昨晩のディルクのように」
ディルクは顔を隠したままだが、耳がうっすら赤くなっているのが分かり、ローゼはただ嬉しくてその耳にキスをする。
「あなたは、私の夢をみんな叶えてくれる。……理想の旦那様です」
「まいったな。仕事をしたくないと思う朝がくるとは思わなかった」
ディルクはもう一度ローゼを押し倒し、彼女の柔肌を堪能した。我に返ったときには、使用人たちが動き出す時間で、いつもは誰よりも先に起きて働いているディルクがいないことを訝しんでさえいた。