マドンナリリーの花言葉
「ええ。……あの方は不思議な方ね。王子様なんて思えないわ」
そう言いつつも、パウラはクラウスからの贈り物を与えられた一室に大切にしまい込んでいる。
浮ついていない落ち着いたデザインでありながらも異素材を組み合わせたドレスは彼のセンスの良さを感じさせたし、髪飾りなどの小物にはかわいらしさを取り入れてくれるところも、胸をくすぐるポイントだ。パウラは久し振りに感じる恋の高揚感に、のぼせたような気持ちにもなっている。
「肖像画だけ見て気に入るなんてことあるのかしら。見た目だけならローゼのほうがいいと思うけれど」
「でも私では駄目のようですよ。気品がないんです、多分。だって私、農園育ちですもん」
「まあ確かに落ち着きはないわね。ディルク様があなたのお相手で良かったわ。しっかりしていらっしゃるし、大抵のことはお任せしても大丈夫でしょう」
パウラは柔らかい微笑みをディルクに向け、褒められた彼も口元に笑みを乗せて応じる。
ローゼとしては複雑な気分だ。パウラはかつてドーレ男爵に恋心を抱いていたのだ。そして目が見えないふりをしていた間も、ディルクに親しげに寄り添っていた。もしかしてパウラ様はディルクを……と思うと、胸がざわざわする。しかしその不安を口に出したわけでもないのに、パウラに指摘された。
「心配しなくても、ディルク様に恋愛感情は抱いていません。私が好きだったのはお父様の男爵のほうよ」
ローゼが驚いて目をぱちくりさせていると、ディルクが堪えきれなくなったように笑い出す。
「全く分かりやすい子ね」とパウラはあきれ顔だ。