マドンナリリーの花言葉
「もうっ、笑わないでください」
「いや。……自覚がないんだな。君は感情が凄く顔に出る。気を付けたほうがいいぞ」
「気をつけろと言われても……どうすればいいんですか」
自覚がないのに直しようがない。やはり貴族の妻になどなれるのか、不安になってしまう。
顔を押さえてシュンとしたローゼに、ディルクは優しく微笑みかけた。
「そうしょげるなよ。君は何も気にすることはない。いつでも笑っていられるように俺が尽くせばいいだけの話だ」
「あら、いちゃつくのなら他所でやってくださいませ」
ずっと人妻だったにもかからわず、男性経験は一度だけというパウラは、甘い雰囲気を漂わせ始めたふたりに涼しい眼差しを向けて、広間を出ようとした。そして、扉の向こうの人影を見て動きを止める。
「やあ、たまには自分でやって来たよ」
扉の向こうにはクラウスがいた。その後ろに、汗だくの様子の従者がふたり。
執事のアントンはようやくホッとしたように表情を緩ませるたが、突然の王子様の来訪を知ったパウラの目は点になり、フリードもディルクも慌てて立ち上がる。
「これはクラウス様。いつの間に」
「贈り物の反応を見たくてね。執事どのに頼んで黙っていてもらったんだ。俺は我が婚約者殿のご機嫌伺いに来ただけだから。構わないでくれ」
「ですが。ええと、お茶を用意させますから」
「いいよ。邪魔しないでくれたまえ」
そう言うと、クラウスは後ろに隠し持っていたマドンナリリーの花束を差し出した。