マドンナリリーの花言葉
「まあ、マドンナリリー」
白く気品のある花で聖母の花とも呼ばれる。ドーレ男爵に扮していた時のディルクもよく贈ってくれたものだ。
「ありがとうございます。でも、あなたは王子様なんですから、これだけの供で王宮を抜けてくるなんて危ないとは思いませんの?」
パウラは嬉しさに頬を染めながらも、年上らしく苦言を呈する。しかし、肝心のクラウスは小言などどこ吹く風といった様子だ。
「だったら君が東の宮に来ればいい。俺はいつでも歓迎するよ」
「行きません。変な噂が立ったらいけませんから」
「言うと思ったよ。だから、決めたんだ」
クラウスはパウラが手に持っていたプレゼントの箱を取り上げる。
「まだ開けていなかったのか。ちょどいい、開けてご覧」
「ええ」
パウラが包みを開けると、そこにはリングクッションがあり、小さな宝石が埋め込まれた指輪が置かれていた。
「指輪……?」
「そう。婚姻のしるしだよ。……迎えに来たんだよ、パウラ。東の宮に君の部屋を用意した。今日から君は俺の婚約者だ」
「え? ちょっと待って、そんな急に」
「もう待つのは飽きた。異論は認めないよ、パウラ」
クラウスはそう言うと、楽しそうにパウラを抱き上げた。
くるくると回されながら、もう夢見る少女じゃないのに、とパウラは思う。
だけど、この傲岸不遜な王子様は、もう三十を超えたパウラを平気で年下のように扱うし、振り回す。そしてとびきり上等な女の子にするように、接してくれるのだ。
うっかり目尻に浮かんでしまった涙を見せてくなくて、パウラはマドンナリリーの花束に顔をうずめた。