マドンナリリーの花言葉
「パウラ様、お花をいただきました」
ローゼに似た女性は、侍女から花を受け取ると花で香りを吸い込んだ。
目は虚ろで、特に何を見ているわけでもない。よく似てはいるが、印象はまったく違った。
あまり感情の起伏の激しくない女性のように見える。
「まあ、いい匂い。ありがとうございます」
「……いえ」
微笑む女性と目を合わせないようにディルクは目を伏せる。
「いつもありがとう。バーレ男爵」
女性が呼んだ名前に、ローゼは息を飲む。
バーレとは確かにディルクの名字だ。だが、彼は男爵などではないはず。
そこまで考えて、突然にローゼは思い出した。
そういえば、かつてこのあたりは、クレムラート領の中でもバーレ男爵家に管理が任されている土地だったのだ。
ローゼの実家であるブレーメン花農園もその一部だ。
だが、九年ほど前、なにかが起こり男爵家はお家断絶となったはずだ。
『男爵がこんなことになって、私たちの土地はいったいどうなるのか』と父母がろうそくの下で話し合っていたのを、当時八歳だったローゼは不安に思って見たものだ。
結局、伯爵直轄領という扱いになり事なきを得たため、その記憶はすっかり薄れていた。
(ディルク様はバーレ性。……ということはもしかして、バーレ男爵家の生き残り?)
お家断絶の詳細をローゼは知らない。
幼すぎて、両親の話している内容は理解できなかったし、興味もなかった。
けれど、ディルクがかかわっていると思えば、話は別だ。
今すぐ実家に帰って詳細を聞きたいと思った。