マドンナリリーの花言葉
「俺の姫君の支度はできたかい?」
ノックもせず、ご機嫌なクラウスが入ってくる。慌てるのは、パウラの夜着を脱がせていたヘルマだ。
「いけません、クラウス様、まだ着替え中です」
「いいじゃないか、妻になる人の裸を見たってバチは当たらない」
「まだ決まっていませんわ。きっと皆さん反対なさりますでしょ」
ツン、と澄ましてパウラが言う。
薄い肌着だけの姿になっても、パウラはそれほど動じない。
嫌な慣れではあるが、変態的嗜好の持ち主だったアンドロシュ子爵のせいで、着替えを見られるのは慣れていた。しかし触られるのは別だ。
「君の肌はきめ細かいなぁ。どんな手入れをしているんだい」
前置きなくクラウスに首を撫でられ、パウラの顔に一気に熱が集まってくる。
「なっ、何をなさるの」
「あれ。これには照れるんだ。首は弱い?」
「弱いというか……びっくりするでしょう」
「そう? じゃあ今後触るのが楽しみだ」
クラウス王子は楽しそうに鼻歌を口ずさみ始める。パウラはひと睨みしてベージュと茶色の二色遣いのドレスに袖を通した。
「ふうん、君は反対されると思っているんだ?」
「私が国王だったとして、王子が子供が産めるか分からない女を娶ろうとするなら止めます」
「君が産めないなんて誰が決めたんだ。三十三ならまだ産める年だろう」
「王家の子は多いほどいいんです。……そんな理由で反対されれば引き下がるしかないでしょう。おそらく私はあなたの愛人という立場にされるわ。王族が愛妾を抱えるのは別におかしな話じゃないし」