マドンナリリーの花言葉


パウラはさも傷ついていないというようにさらりと言った。しかし内心は自分の言葉に切り刻まれる思いだった。

パウラはなんだかんだとこの破天荒な王子が好きだ。アンドロシュ子爵の屋敷から救い出してくれて、パウラを年下のように扱う。まるで失ってしまった少女期をやり直させてくれているようでうれしかったし、十歳も下の男性だとは思えない傲岸不遜な態度は、彼を素敵に見せてくれる。求婚されたときは素直に嬉しかった。

けれど、時がたつにつれパウラだって冷静になるのだ。王子という立場を考えれば、パウラは絶対に彼の妻にはなれない。


「俺は愛妾などいらないよ。君がいればいい。それにさ、若いから子が出来るってわけでもないだろう。兄上は若い上流貴族の娘であるクリスティアーネ様を娶ったというのに、結局子供はいまだいない。兄上と結婚したのは八年も前だよ? 兄上のほうこそ離婚して子供の産める正妻を貰うべきだ」

「……口が過ぎます。どんな理由であれ、子供が産めないことで一番つらい思いをしているのはクリスティアーネ様ですわ。彼女の前でそれを言ったら、私、国王に反対されずともここを出ていきますわよ」


キッと睨みつけたパウラに、クラウスは慌てだす。


「おっと、口が滑ったな。だがその気の強そうな顔も悪くない。美人はどんな表情も美しいもんだな」

「お世辞などいりません」

「そう言うなよ。とにかく、愛妾になれと言われても決して頷くなよ。俺は君を妻にすると決めているんだ」

「……はい」


まだまだ言いたいことはあったが、頬へのキスでほだされてしまったパウラは素直に頷いた。
恋とは不思議なものだ。彼のすべてが好きだというわけでもないのに、結局は彼のことを受け入れてしまう。

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