マドンナリリーの花言葉



 美しく薄化粧を施されたパウラは、男性の目を惹かずにはいない。王宮の入口に横付けした馬車から下りたとたんに、パウラは警備兵たちの視線を一身に浴びた。
それは中に入っても同じだ。王宮に出入りしている貴族たちが、立ち止まってパウラを見やる。


「もしかして、以前第二王子主催の夜会でおられた方では」

「え、ええ」


ローゼとパウラを間違えるものも多くいたが、クラウスの指示でそれは曖昧に頷くだけにとどめる。

今日はまず、国王と第一王子夫妻へに謁見する。
通されたのは謁見室で、国王は王座に座っていた。パウラは緊張して胃のあたりがきしんだ。クラウスに並んで一礼したものの、恐れ多すぎて表情が見える位置まで顔を上げられない。


「今日は大切な人を紹介しに参りました」


クラウスのほうはにっこり微笑むと、パウラをエスコートしながら前へと踏み出した。

広い謁見室の正面は階段状に四段ほど高くなっていて、そこに玉座と右隣に王妃が座る椅子がある。二段下りた位置にも椅子が置かれていて、第一王子フェリクスとその妻・クリスティアーネがそこに座っていた。

フェリクスはクラウスとよく似た金髪に緑色の瞳の美男子だが、体が弱いというだけあって、体の線は細く、弱々しい印象だ。二十八歳だというが、五歳も下のクラウスのほうが年上に思える。奥方のクリスティアーネは名門アーレンス侯爵家から嫁いだ令嬢で、現在は二十六歳になる。少し小太りだが、可愛らしい顔をした金髪の娘だ。


「兄上! 久しぶりですね。お体はよろしいので?」


クラウスは兄の姿を見つけると、途端に溌溂とし始める。


(……ブラコンなのかしら)


パウラはそう思いながらも、玉座の足元辺りに目を向けて澄ましていた。
前々から思っていたが、クラウスは異様なほど兄を擁護する言動をとる。

< 235 / 255 >

この作品をシェア

pagetop