マドンナリリーの花言葉
「顔を上げたまえ」
国王の声に、パウラは恭しく顔をあげる。威厳のある国王とクラウスによく似た美しい王妃のまなざしが一気にパウラに注がれた。
パウラの心に自然にベールがかかる。
目の前に立つ人間が期待する通りの人形になること。それはパウラが長年強要されたことで、今は意識せずともそれが出来るようになっていた。
「パウラ=クライバーと申します。此度はクラウス様の尽力により、自由の身にさせていただけたこと、心からお礼申し上げます」
出来るだけ若々しく、けれど物分かりはよく、目立たず、御しやすそうな女になる。
一瞬で国王の要望を感じ取ったパウラは声を震わせながらも、望まれているであろう女を演じ始める。
「ほう。……これはたしかに美しいな。クラウスが夢中になるのも分からないでもない」
「そうでしょう。父上。以前も申しましたが、俺は彼女を妻に迎えたいと思っています」
「だが問題は年齢だ。パウラとやら、年はいくつだ」
パウラはちらりとクラウスに目配せする。クラウスには見た目は若く見えるのだから誤魔化せと言われているが、いつかバレることを思ったら最初から正直に言ったほうが得だ。
パウラはもう絶望には慣れている。仮にここでクラウスとの結婚が反対されても、愛妾として生きる道は残されているのだ。
ただ真っ白な希望の道を選ぶほど、パウラのこれまでの人生は綺麗ではなかった。
「三十三になります。クラウス様より十も年上ですわ」
「ちょ、パウラ」
「どうせいつかはバレます。私は国王様を騙すようなことはしたくありません」
クラウスが目をむき、パウラが淡々と答える。