マドンナリリーの花言葉

クラウスのまなざしは、いつもパウラの心にかかったベールを外してしまう。
自分でも思いがけないほど素直に、言葉が次々と出てくるのだ。


「君の見た目なら二十五歳でもいけるって言ってるだろう! なんで素直にごまかさないんだよ」

「勝手なことばかり言わないでくださいませ。罪の意識を感じるのは私ですよ。そんないたたまれない気持ちで毎日を送ることなどできません」


目の前で言い合いを始めるふたりを、国王も女王も、第一王子夫妻も呆気に取られて見ている。


「……は、ははっ。ごほっ」

「大丈夫ですか、フェリクス様」


笑い声は、小さなものだった。しかも、すぐに咳の音にかき消される。
しかし、クラウスはその音を聞き漏らさない。


「兄上、何を笑っているんですか」

「は、はは。だって、クラウスがやり込められるなんて珍しいからさ。……クリスティアーネ、すまない、大丈夫だよ」


フェリクスはすぐに背中をさすり始めた妻を気遣いつつも、立ち上がって王に進言した。


「父上、よろしいのではないですか? クラウスを諫めることの出来る女性など、そうはいませんよ。ましてこの美しさなら民衆も彼女に希望を見出すでしょう」

「しかしだな。跡継ぎの問題がある。今王家の危急の課題は正妻との間に子を作ることだ。フェリクスにもクラウスにも子が出来なければ、跡目争いでもめるのは目に見えているだろう」

「それは、……申し訳ありません。僕が至らぬもので」


国王の声に、身を震わせた奥方を守るように、フェリクスが前に立った。


「三十三で子が産めないなどと誰が決めたのです。俺は彼女以外を娶る気はない。であれば早々に結婚の許可をいただいたほうが得策ではないですかね。年を重ねれば妊娠しにくくなるのは確かですから」

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