マドンナリリーの花言葉
膝をついたクラウスの呼吸が荒くなっている。パウラは媚薬というものを使ったことはないが、存在は知っている。性的な欲求が高まり抑えがきかなくなるのだ。だとしたらクラウスは目の前の彼女に愛を囁き、抱くのだろうか。
(私を愛していると言った口で?)
パウラの心に、今までに灯ったことのない嫉妬の炎が揺らめいた。
クラウスの心変わりの浮気ならば多分諦められた。けれど、今は彼の意思も無視された状態だ。
世継ぎが必要なのはわかる。病弱な王太子との間に子が出来ず焦る気持ちも、女としては理解できる。
王族に継承される緑の瞳。現在それを持っているのは国王と王弟バルテル公、そして王太子と第二王子。この誰かの子であるなら、王太子の子だと偽ることができる――クリスティアーネはおそらく、そのように考えたのだ。
(わかる、……けれど)
パウラは大きく深呼吸をして、クラウスの部屋に入る。突然のパウラの乱入に、ドレスの胸元をはだけさせた状態のクリスティアーネが、クラウスの前から飛びのった。
「ぱ、パウラ様?」
「クリスティアーネ様。お話、聞いてしまいました。あなたのお気持ち、わかりますわ。王家に嫁いだものとして、世継ぎを産めないのがどれほどお辛いのかも」
沈痛な面持ちのパウラに、クリスティアーネはホッとした表情を作る。
「あ、……では」
「ですが、クラウス様はダメです。私の夫になるのですから」
はっきり言い放ったパウラに、クラウスが熱っぽいまなざしを向ける。クリスティアーネのほうは、パウラに掴みかかるようにして懇願した。
「お願いよ、パウラ様。私だってこんなことしたくないの。でも、どうしても子供が欲しいの。王家の子が必要なのよ!」
「クリスティアーネ様は焦っておられるのよ。あなたもフェリクス様もまだお若いわ。体を温め、心を休めて。そうした状態を保っていればまだ妊娠する可能性はあります。こんな不実を許してしまったら、あなたは一生、心を傷つけた状態で生きねばならないのですよ」