マドンナリリーの花言葉
「では奥様、お休みなさいませ」
執事のヨーゼフに頭を下げられ、ローゼはつられるように「ヨーゼフさんもお疲れさまでした。ゆっくり休んでください」と深々と頭をさげた。
次に顔を上げた時、ヨーゼフの眉根のしわを見て、しまった、と思う。
「では、お先に」
「ごゆっくりお休みくださいませ」
ヨーゼフはローゼが部屋に下がるまで見送る姿勢を崩さない。
実際、ローゼは、ヨーゼフの背中を見た記憶があまりない。いつも正面からローゼと向きあい、女主人として立てようとする。
今日も自分が先に部屋に戻らなければヨーゼフはその場から動かないだろうと思われたので、ローゼはそそくさと部屋に入った。
「……ふう」
部屋に入ると、自然、ため息がこぼれ出る。
奥様と呼ばれることも、周りから敬語を使われることもいまだ慣れないのだ。
現在、ディルクは王都へ仕事に出ている。結婚してから、初めての泊りの仕事だ。
本人は日帰りするつもりだったようだが、クラウスからの強い要望もあり、一泊の予定だと言って出かけて行った。
今日が帰宅の予定だったが、今はもう夜の十時を過ぎている。馬を走らせるにはもう暗すぎるし、きっともう一泊するのだろう。