マドンナリリーの花言葉
自分より有能な人に敬意を払うのはローゼにとって当たり前のことだ。それがダメだと言われたら、自分が今まで持っていた常識のすべてを覆されるような気がする。
「はあ」
二度目のため息とともに、ベッドに横たわる。
そのまま、うとうとと眠りについてしまったローゼは、ヨーゼフの慌てたような声で目が覚めた。
「これは、旦那様。……申し訳ありません。てっきり今日はお泊りかと」
「それも一瞬かすめたんだが、強行軍を通してしまった。俺が帰って来たからといってでてこなくてもいいよ。そのまま休んでいてくれ」
「そういうわけには」
「俺ももう寝るだけだ。今日は疲れたから、明日の朝は起きてくるまで放っておいてくれ」
「はい」
どうやら、ディルクが帰ってきたようだ。ローゼも慌ててベッドから飛び起き、鏡に向かう。
しかし、もう寝るつもりだったから化粧も落としてしまっている。
どうしよう、どうしよう、とローゼがおたおたしているうちに、ディルクはノックもせずに入ってきた。
「……起きていたのか?」
若干拍子抜けした声に、ローゼは先ほどのうたたねではねてしまった髪を押さえながら顔を赤くした。
「お、お帰りなさいませ」
(そうだ。髪を直すよりなにより、お出迎えしなきゃいけなかったのに)
「あの、ディルク、その」
「疲れたよ。ただいま。土産があるよ」
ディルクはソファにどさりと座り込むと、手招きしてローゼを呼ぶ。