マドンナリリーの花言葉
「やあ、ローゼ。お父上との話は終わった?」
「ええ。……何をしてらっしゃるの?」
「ディルク様が農園の管理について知りたいっていうからさ」
母が自分でつけているメモ書きだ。出荷や入荷についての記録、花に病気が発生したときなどの対処法や変種の情報など、母は細かに書きつけている。
「面白いですか?」
「面白いね。知らないことを知るのは楽しいもんだよ」
「そうですか」
例えばそれが自分を傷つけるようなことだったら?
これからディルクに聞かされるであろう、自分に似た顔の女性のことを思い出して、ローゼは少し尻込みする。
その間に、ディルクは書付を閉じ、ローゼの母に深々とお礼をする。
「大切なもの見せていただきまして。ありがとうございます」
「あら、いいんですよ。夫はバカにするんです。こんなもの書いてどうするんだって。農業は経験と勘だっていう人でねぇ。だから真剣に読んでいただけて嬉しかったです。こんなしっかりした方が職場にいるなら、私も安心だわ」
どうやら、父とローゼが話し込んでいる間に、ディルクと母はすっかり打ち解けたらしい。
「お父さんはローゼの周りに近づく男の人にはみんな冷たいの。出てくると面倒くさいから、彼が農園から戻る前にお帰りなさい」
ディルクを気遣って、こんなことまで言う。
母は見送りの際に不安そうな顔でローゼの頬を撫でる。
「本当に辛いと思ったらいつでも帰っておいでね」
「大丈夫。実はね、私の好きな人って、ディルク様なの。振られるかもしれないってさっきは泣いちゃったけど、迎えに来てくれたからこれはきっとチャンスだわ。……ごめんねママ。また手紙を書くわ」
母にだけ聞こえるようにこっそりと耳打ちする。
半分は嘘で半分は本当だ。だが、母親はそっくりそのまま信じたらしく、顔を綻ばせた。
「お前は可愛いから大丈夫だよ。しっかりした男性みたいじゃないか。どこの方なんだい? 名字を聞かなかったけど」
「また今度話すわ、ママ。お休みをもらえたら、また来るわね」
今母を不安にさせても仕方ないと、ローゼは話を打ち切った。