マドンナリリーの花言葉
「慣れるまでちゃんとフォローしてあげてね。アントン、ディルク」
「あ……ええ」
エミーリアの言葉に、ディルクは我に返ったように顔を上げ、瞬きをする。
フリードはそれに目ざとく気づき、からかうような声を上げた。
「どうした、ディルク。王宮からの移動で疲れたか? それとも、あまりに綺麗な子だから見とれたか?」
「……あなたはどうしてそう人をからかうときばかり楽しそうなんですかね。お二人とも長旅でお疲れでしょう。しばらくはお部屋でお休みください。ローゼ、しっかり仕事に励むように」
「は、はい」
ローゼが頭を下げるのと同時に、エミーリアが「じゃあ少し下がらせてもらうわね」歩き出す。その後に、彼女を守るようにフリードが無言で続いた。通常主人のほうが前を行くものだが、この夫婦は違うのだとローゼは不思議に思った。
ローゼもそのまま持ち場に戻ろうと歩き出したが、数歩進んだところでディルクに呼び止められる。
「ローゼと言ったな。出身は?」
理想の塊のような彼が自分の名前を呼んでいる。それだけで頭に血が上ってしまったローゼは慌てふためいた。
とにかく、歩いたまま話すのは失礼なので、足を止め、精一杯のかしこまった表情をつくった。