マドンナリリーの花言葉
袖でぐっと涙をぬぐって、これ以上こぼれないように上を向く。
ローゼのそんな様子を見て、ディルクはついにこらえきれなくなって笑い出した。
「……君は……本当に。……あり得ないな。こんな女性がいるなんて」
「何かおかしかったですかっ」
「いや。……よく今までそこまで純粋に生きてこれたもんだ。君のご両親は随分と過保護だったのかな」
くっくっとお腹を抱えながら笑うディルクに、ローゼは胸がきゅんとなる。こんな風に心の底から笑う姿を、初めて見たのだ。
「……ディルク様がそんな風に笑ってくださるなら。私、馬鹿でもいいです」
「何言っているんだ。ほら、あちらの雲が黒い。早く帰ろう。乗って」
「はい」
手を掴んでのせてくれる。そのしぐさも行きの時よりずっと優しい。距離が近づけたような気がして嬉しくなりつつ、彼が憎んでいる人と自分が同じ顔である事実が、棘のように胸に突き刺さる。
(彼が私を好きになってくれることはないのかもしれない。……この顔を見ても、彼は私じゃなくてパウラ様を思い出すんだもの)
目の前にいてさえ、他人の面影を重ねられるのだ。それは思った以上に苦しい。ここにいるのに見てもらえない。まるで幽霊にでもなった気分だ。
綺麗だと言われる顔が、今日ばかりは恨めしいと思った。