マドンナリリーの花言葉


稲光を伴う雨に、伯爵夫人エミーリアは不安げに空を見上げた。


「大丈夫かしら、フリード」


豊かな茶色の髪はハーフトップでまとめられていて、おろした分の髪は湿気を含んで膨らんでいる。
思い通りにならない髪をつまみあげて唇を尖らせていると、左腕にそっと義妹であるマルティナがしがみついてくる。


「ト、トマスも、大丈夫でしょうか」


どうやらマルティナは雷が苦手らしく、こういう天気の日は誰かと一緒にいたがる。雷鳴が聞こえた途端、エミーリアの自室へ飛び込んできたのだ。
エミーリアはすっかり伸びた義妹の髪を優しく撫でる。羨ましいくらいのサラサラの髪はフリードの金髪よりも深みのあるダークブロンドだ。


「トマスは大丈夫よ。昔から何でもできるし、落ち着いているから。馬の扱いも慣れているから心配しないで。むしろフリードのほうが心配だわ。普段から雑事はディルクに任せっぱなしだから。ちゃんと外套とか羽織っているかしら。濡れても放っておきそう」


マルティナをなだめるように背中を撫でながら、エミーリアは窓の外から視線をそらさなかった。


「皆様、殿方の心配で大忙しですわね」


エミーリアの侍女のメラニーが、くすくす笑いながらお茶を注ぐ。いい香りが部屋中に広がって、エミーリアとマルティナも少し表情を和らげた。

と、遠くから駆けてくる馬の姿が見えた。雨で視界はよくないが、人影が重なっているように見える。どうやら馬の背に乗っているのはふたりだ。

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