マドンナリリーの花言葉
(これじゃ、私、お荷物なだけだわ)
しゅん、としょげながらも、確かに反抗したところで邪魔にしかなっていないので、ローゼはおとなしく身を縮めた。
前を見れば馬が怯えた様子なので、安心させるように首筋のあたりを撫でる。すると少し調子を戻したのか、馬の足取りは早くなったので、ローゼはその動作を続けた。
「いいぞ。ヴェラ。落ち着いて走れ」
「この子の名前ですか? 牝馬なのですね」
「牝馬のほうが従順だ。小回りも効くしな」
「そうですね。ヴェラ。私まで乗っていてごめんね。頑張って」
ローザが馬の首を撫で続けたのが功を奏したのか、それともディルクの手綱さばきが良かったのか。馬は濡れた地面に足を取られることもなく、無事にクレムラート伯爵邸に到着した。
馬の姿を見て、厩舎に籠っていた馬番が目を丸くして迎えに出てくる。
「うわー。この雷雨の中、よく戻ってこられましたねぇ」
「まあ、雷は遠ざかっているからな。ヴェラをよく手入れしてやってくれ」
馬を下り、ローゼは感謝を込めてヴェラの背に頬を当てる。と、ずぶぬれの馬は身震いをし、体の水滴をはじいた。
当然、傍にいたローゼはずぶぬれだ。
「あ……。すみません、ディルク様。せっかく外套を貸していただいたのに。……びちゃびちゃです」
眉を八の字にして、途方に暮れたように長い袖を持ち上げるローゼにディルクは思わず吹き出してしまう。
ディルクのそんな笑い方を見たことのないローゼは心臓が飛び出すかと思った。