マドンナリリーの花言葉
「は、ははっ。本当に君は変わってるな。濡れた馬に近づけばそうなることくらいわかるだろう」
「で、でもっ。ヴェラにお礼がしたくて」
「礼なら今度厨房からニンジンでもちょろまかしてくれればいい。早く入ろう。風邪をひくぞ」
「それを言うならディルク様のほうがずぶぬれです」
水も滴るいい男……などどのんきに言っている場合ではない。
三十分以上濡れながら風で冷やされ続けたのだ。常人ならすぐに風邪をひくだろう。
軽く服を絞って裏口から入り、近くにいたメイドの一人にタオルを頼む。
幸い、リネン室は近くにあり、すぐに大判のタオルを二枚持ってきてもらえた。
「早く拭いて下さい」
「君もだ。せっかく濡れないようにしたっていうのに、顔までびちゃびちゃじゃないか」
彼に向けて伸ばした手からタオルを奪いとられ、まるで子供の面倒でも見るようにディルクが顔まで拭いてくれる。
ローゼとしては濡れた彼を自分が拭くつもりだったのに、全然思い通りにならない。
「……なんでそんな顔してるんだ」
「えっ、そんな顔ってどんな顔ですか?」
「いや、不貞腐れているというか……子ども扱いされるのが嫌ならまず自分のことをしろ」
気持ちが顔に出てしまっているらしい。
嘘も上手につけなければ隠し事もできない。本当に子供みたいだ。