マドンナリリーの花言葉
ローゼがしゅん、と首を垂れて落ち込んでいると、パタパタと複数人の足音が響いてきた。
タオルを持ってきてくれたメイドが居住まいをただし、頭を下げる。
誰がいらっしゃったのかしらとローゼが振り向き、やってくる面子の豪華さに目が点になった。
そこには、伯爵夫人エミーリアと伯爵の妹であるマルティナ、そしてエミーリア付きの侍女であるメラニーがそろっているではないか。
ローゼは慌てて頭を下げる。
ディルクのほうは彼女を拭いている手を止め、不思議そうに彼女らを見つめる。
「……エミーリア様、どうされました? そういえば、厩にフリード様の馬がいなかったようでしたが、どこかへお出かけですか?」
「ディルク、お帰りなさい。早かったのね。えっとね、フリードは外出中よ。雷が鳴っているからきっとどこかで休んでいるわね」
エミーリアがごまかそうとしたタイミングで、もうひとり、裏口から駆け込んできた人物がいた。
水のしたたる外套を翻してやって来たのは常ならばマルティナに付き従っているはずのトマスだ。
「あ! トマス、お帰りなさい」
従者の帰宅に喜ぶマルティナは、床が濡れているのも気にせず彼に近づく。と、当然のごとく足を滑らせ、びしょ濡れのトマスに抱きかかえられた。
トマスは「うわあ、マルティナ様まで濡れちゃいましたよ」と情けない声をあげ、彼女をまだ床の濡れていないところにおろした。しかしトマスの外套がびしょ濡れなので、床の濡れる範囲はどんどん広がっていってしまう。
マルティナはトマスの顔を拭いてあげたいらしく、タオルを求めてメイドに目配せするが、恐れ多いとばかりに頭を下げているメイドはなかなかそれに気づかない。