マドンナリリーの花言葉
その様子を眺めながら、ディルクは不信感をあらわにする。
トマスは現在マルティナの従者であり、マルティナが放したがらないこともあって、一緒にいるのが基本の状態だ。この従者が令嬢を放ってどこかに行くとすれば、領主か奥方の命令ということになる。
「トマス。どこに行っていたんだ?」
「あれっ、ディルク様。もうお帰りですか。お休みだったのでは?」
自分がずぶ濡れすぎて周りに目が言っていなかったのか、トマスは今、ディルクの存在に気が付いたようだ。
「この天気だしな、早めに帰って来たんだ」
「そうなんですか。そう、……それは、あの」
トマスがなんとなく口ごもる。エミーリアはメイドにタオルをもっと持ってくるように言い、一歩前に出た。
「お帰りなさいトマス。ご苦労様。フリードはどうしたの?」
「それが……」
トマスはちらり、とディルクを見、あきらめたように告げた。
「ギュンター様との視察は順調に進んでいますが、この雷雨では危険なのでギュンター様を屋敷にお迎えすることになりました。急ぎ、部屋を用意していただくよう申しつかり、先に参りました。エミーリア様、ご指示を」
それに過敏に反応したのはディルクだ。
「ギュンター様? どうして私が不在の日にそんな重要な方とお会いになっているんですか。聞いていませんよ?」
ディルクの鋭い視線を、エミーリアはすっとぼけてごまかすことにした。
「あら、大変! 早く準備しなくちゃ」
「奥様。逃げないでいただきたい」
低く鋭利な声に、周囲の空気が凍てついた。まるで本当に温度が二度ほど下がったかのように身震いをして、エミーリアは観念して答えた。