マドンナリリーの花言葉
「メラニー、メイド長に部屋の用意をお願いしてきて」と伝言を頼み、改めてディルクに向きなおる。
「あのね、ディルク。これには理由があるの。ほら、お兄様は蜂蜜の取引をしたいっておっしゃっていたでしょう?」
「それは存じています。ですが別の日で日程調整していたはずですが」
「急遽今日になったの。本当は日帰りの予定だったのよ。あなたの休暇を邪魔したくないから言わなかっただけ」
ディルクは不機嫌さを隠さなかった。冷静に淡々と話しているのが、ローゼには傷ついているようにも見えた。
「重要な案件をフリード様が私に隠すことは滅多にありません。エミーリア様の兄上様との視察なら、相談があってしかるべきでしょう」
「でもあなたにだって休暇は必要だわ。教えたら絶対に今日の予定のほうを取りやめたでしょう? だから黙っていたの。別にディルクを信用していないとかそういう意味じゃないわ。分かるでしょう? フリードはあなたを頼りにしている。でも振り回すんじゃなく大切にしたいと思っているのよ。……それより、ずいぶんびしょ濡れじゃない、早く着替えてこないと、あなただけじゃなく彼女も風邪をひくわ」
エミーリアは冷やかすようにニヤニヤしながら、彼の後ろのローゼを指さす。「あ」と思い出したようにディルクが振り向き、呆けたようにこちらを見上げている彼女に、自分の分のタオルも巻き付ける。
「君は早く部屋に戻って着替えるんだ。……エミーリア様、別に今日は彼女と出かける予定だったわけではなく、たまたま行く方向が一緒だったからで……」
「別に弁解なんかいらないわ。あなたたちは今日お休みだし、休みの日の行動まで報告する義務はないわ。ディルクもたまには自分の好きに動いて構わないのよ。無理に雨の中戻らなくてもよかったのに」
「話題をすり替えないでください!」
ディルクの剣幕に全く動じないエミーリアにすごいなぁと感心しつつ、ローゼは濡れた髪を拭く。
その時にくしゃみが出てしまい、振り向いたディルクとエミーリアに声を揃えて「早く着替えてきなさい」と怒られた。
「は、はいっ」
心配されたのを嬉しく思いながら、ローゼは慌てて自室へと引き下がった。