マドンナリリーの花言葉
準備するように言い使った客間は階段を上がって右手にある、続き間のついた部屋だ。
ローゼが入ったときには、部屋の掃除を頼まれていたメイドたちがちょうど終わったところで、水の入ったバケツを抱えて出ていくところだった。
「あんまり早く行ったらあっちを頼まれていたわね。ラッキーだったわ」
ジルケが含み笑いをしてウィンクする。確かに、水仕事よりはシーツの交換のほうが仕事としてはいい。
大急ぎでシーツを替え、枕の位置を直しカバーをかける。ナターリエが確認にやって来て「花が足りないわね」と言うので、庭師に花を見立ててもらい、飾り棚の上に花瓶を置いた。
「よし、完璧」
満足して出て行こうとしたとき、入り口に人の気配がした。
「おや、ローザじゃないか。すぐ働いて大丈夫なのか?」
「それを言ったらディルク様だって」
白いシャツに黒のジャケットを羽織り、すっかり身支度を整えたディルクは、先ほどよりは近寄りがたい雰囲気がある。
部屋を一瞥し、「部屋は整ったな。今、浴室を使っていただいているんだ。もう入って頂いてもいいな?」と確認する。
「はい。あ、でも奥様にチェックしていただいたほうが」
「今お呼びする。君は下がっていいよ」
「はい」
頭を下げて戻ろうとしたとき、向こうからギュンターとエミーリアがそろってやってくる。
似た色の髪に、パッと目を惹く整った顔がふたつ。さすが兄妹という感じで顔のつくりは似ているが、華やかさでエミーリアが際立つ。しかしながらふたりが並べば月と太陽がそろい踏みと言ったところで、ローゼは思わず頭を下げるのを忘れて見入ってしまった。