マドンナリリーの花言葉
「これはギュンター様。お湯加減はいかがでしたか」
「良かったよ。急に悪かったね。フリード殿の従者だったね。休みだと聞いていたんだが呼びたててしまったかな」
「いいえ。ギュンター様がいらっしゃると知って休んでなどいられません。どうぞ、しばらく部屋でお休みください。食事の用意が出来ましたらお呼びいたしますので」
ディルクは笑顔だが、内心はムッとしてもいる。それを察知したエミーリアは苦笑しながら、「お兄様、久しぶりにお話しましょ」と会話を引き取った。
見入っていたローゼは慌てて頭を下げる。と、一瞬だけギュンターと視線が絡んだ。
彼は目を見張り、驚愕ともいうべき表情を浮かべて立ち止まる。
ローゼは心臓がバクバクしてくる。メイドが高貴な人の顔をぶしつけにじっと見るなど失礼なことだ。
クレムラート伯爵夫妻は気さくだが、貴族の中にはメイドとは顔も合わさない人もいると聞いたことがある。
自然に体が震えてきて、早く通り過ぎてほしいと一心に頭を下げ続ける。
ところが、ギュンターは一向に動こうとしない。それどころか、ローゼの前に立ちどまって髪をひと房持ち上げるではないか。
「ピンクゴールドの髪……君はメイド?」
「やだ、お兄様どうしたの?」
「いや、この彼女……」
大きな手がローゼの顎を掴み、持ち上げた。
ギュンターの整った顔がすぐ近くに見えて、ローゼは全身を硬直させた。
「えっ、あっ、あのっ」
「君、名前は」
「ろっ、ローゼと申します。あの、私何か失礼でも……」
ローゼは完全にパニックだ。初めて会う客人に怒られるのかと思い、ジワリと涙が浮かんでくる。