マドンナリリーの花言葉
「あいにくですが、彼女は雇ったばかりのメイドで、まだ仕事にも慣れていません。由緒正しい伯爵家に送って何かあっては申し訳ない」
「メイドの仕事を頼みたいわけじゃない。ある人に彼女を会わせたいだけだ」
「お兄様が言えないってことはそれなりの身分の人でしょう? 見初められたらローゼは戻ってこられないじゃないの。この屋敷の女主人として頷くわけにはいかないわ」
はっきり言ったエミーリアに、ギュンターは思わず微笑んだ。
「すごいな。エミーリアがここまで成長するとは。……フリード殿のおかげかな」
妻を褒められるとまんざらでもないフリードは口元を綻ばせる。
「彼女は、屋敷の人間を家族のように大切にしてくれる。いい妻ですよ。愛情深く育ててくださったベルンシュタイン伯爵のおかげでしょう」
「父に言っておくよ。喜ぶだろう」
「でも、義兄上がお困りなのも分かります。食事の後、ふたりで話せませんか?」
「ちょっとフリード」
「悪いようにはしないよ。君はローゼを守ってやりたいんだろう?」
フリードが微笑んでエミーリアの頬をくすぐると、エミーリアもこれ以上強気に出れなくなった。
「……分かりました。あなたにお任せします」
「おや、じゃじゃ馬が大人しくなった。すごいな、フリード殿。君はエミーリアを制御することにかけてはぴか一だ」
「まさか。彼女が俺のためにいうことを聞いてくれているだけですよ」
一部始終を黙って聞いていたディルクは、ギュンターを静かに見つめた。
ローゼに似ているということは、パウラ夫人にも似ているということだ。
これまで農園にいたローゼが別の領土の人間と出会う機会はほとんどない。
ギュンターが探しているのは、パウラのほうではないだろうか。
しかしそれを言ってもいいものか。
内心で色々な可能性を考えながら、ディルクは伯爵夫妻とギュンターが食事を終えるのを見守っていた。