マドンナリリーの花言葉
「あ。すみません。お目汚しなものをっ」
「いや。……君がお目汚しというと嫌味になるからそういうことは言わないほうがいい。なにか羽織るものがいるな。ええと」
ディルクは自分のクローゼットからガウンを取り出し、ローゼに預ける。
「この時間ならまだメイドたちも起きていないだろう。部屋に帰って着替えるといい。無理をせず、今日は一日休みをとるんだな」
「でも、みんなのご迷惑になります」
「病人にウロチョロされるほうが迷惑だよ。俺からもナターリエに言っておこう。……送っていこうか?」
「大丈夫です。ひとりで戻れます!」
ディルクのガウンは長すぎて、裾を引きずってしまう。ローゼは裾をつまんで持ち上げ、更に自らの毛布を抱えてよたよたと歩く。
「あの……すみません。ディルク様のベッドを汗だくにしてしまって」
「ああ。構わない」
「あとでシーツ交換に参ります」
「いいと言っているだろう。今日は休め、分かったな」
ディルクが、ローゼのおでこを人差し指でつついた。ローゼは意外な気がして見上げてしまった。
「あの……」
「なんだ? 早く戻らないと皆が起きるぞ?」
「あ、はい! では、ありがとうございました」
ぽてぽてと歩きながら、ローゼは何度もディルクの部屋を振り返る。
本人は気付いていないのだろうが、なんだかディルクの態度から遠慮のようなものが消えてる。
ローゼはそれが嬉しくてたまらなかった。