マドンナリリーの花言葉

(そういえば、やたらに名前を聞かれたわ)


それに、母は貴族の男性はすぐに愛人を作るといってはいなかったか。

ローゼは背筋がぞっとした。たしかに、端正な顔の美丈夫ではあったが、貴族のつまみ食いの相手として選ばれるなんて冗談ではない。


「うそ。無理よ。私なんて、学もないし」

「でもローゼは文字の読み書きができるじゃない。私なんて書けないもの。そこを見込まれたのかも知れないわね」


純粋に羨ましそうにジルケは微笑む。


「ジルケ、その話、誰に言われたの?」

「ナターリエ様よ。ローゼが元気になったら伝えるからって」

「……私、ナターリエ様に会いに行ってくるわ」


ローゼは起き上がり、着替えを始めた。ジルケは慌てて彼女の額を触る。


「ダメよ、無理しちゃ。……あら、でも熱は下がったわね」

「うん。ジルケのくれた薬のおかげよ」

「薬?」


ジルケがあまりにキョトンとしているので、ローゼは焦る。


「途中戻って来て様子を見てくれたんでしょう? タオルが替えてあったし、薬も……」

「私じゃないわ。今日はギュンター様がお帰りになった後の片付けて、一日中バタバタとしていたし……」

「じゃあ誰……」


脳裏に浮かぶのは、ディルクだ。
だが、ディルクがそこまでしてくれるわけがない。ローゼは首をぶんぶん振って、妄想を吹き飛ばす。


「とにかく、ナターリエ様に話を聞いてくるわ!」

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