マドンナリリーの花言葉
「身の程知らずって言うんでしょう。でも私は、貧乏でもいいから、ちゃんと愛のある家庭を築きたいんです」
「君の家のようにかい?」
「ええ」
ディルクが彼女の髪をくしゃくしゃと撫でる。ローゼが顔を上げると、驚くほど優しい彼の笑顔が目に飛び込んできた。
「さっきのは冗談だ。愛人になどならないよ。ギュンター様には溺愛されている奥方様がいるから安心していい。それに、仮に何か起こっても、エミーリア様が君を守ると約束して下さっている」
「エミーリア様が?」
「この屋敷の人間を守るのは自らの務めだとちゃんとわかっておられる。エミーリア様はいい女主人だよ。彼女の侍女になるのは、君にとってもいい経験になるだろう。その話に関しては心配することはない」
「……本当ですか?」
不安げなローゼに、ディルクの悪戯心が疼いた。
「それで信じきれないと言うなら、俺が守ろう」
途端にローゼの顔が一気に赤くなる。ディルクは予想通りの反応に笑いたくなりつつ、先ほどからついつい彼女の反応で遊んでしまっている自分を意外に思ってもいた。
「まあ、そういうわけだ。元気になったのなら明日にでもナターリエ殿を通して話がいくだろう。部屋に戻りなさい」
「はい。……あの」
ディルクに促され、ローゼは今来た道を戻り始める。部屋の前まで送ってもらったところで、ついに我慢しきれずに言ってしまう。