マドンナリリーの花言葉

あの方が笑ってくれたなら、きっと天にも昇る気持ちになれるだろう。

それには、まずは仕事ができるようにならなければ。
なにせ、ディルクは『完全無欠の従者様』と使用人内で言われるほど、そつのない、出来た男らしいのだ。
彼の前で失敗などしでかしては、恋を育てる前に呆れられてしまう。

ローゼは気合を入れなおす。まずは目先の仕事から、だ。
『ひとつひとつ、丁寧に作業していけば、必ずいつか結果はついてくるわよ』と教えてくれたのは母だ。農園の仕事がうまく手伝えなくて泣いた時は、母がいつも励ましてくれた。


「よしっ」


両手に余る程の花を抱えて、メイド長のナターリエのところにもっていく。


「ご苦労様。花を活け替えましょう。次は屋敷内から花瓶をとって来てくれるかしら」

「はい!」


雑用のような仕事ばかりだが、まずはこれができるようにならないと始まらない。
ローゼは美しい金髪が乱れるのもかまわず、ほとんど走っているといえるような速さで歩く。

花をまとめて置いた今の場所は、一階の水場の近くにある廊下だ。そこへ、屋敷中のありとあらゆる部屋から花瓶を探し出し持って行く。花瓶は大ぶりのものが多く、ひとつ持ったらそれ以上持つのは危ない。結果、屋敷の中を何往復したか分からないほど歩き、すっかり汗だくになってしまった。


「古い花は捨てていいわ」

「はあ、はあ、……でも。まだ十分綺麗ですけど」

「新しいのが来たら捨てる決まりなの。いちいち分別している余裕がないのよ」


ナターリエはあっさりとそう言う。考えてみればその通りなのだが、これまで花農家にいたローゼはなんだか寂しい気がする。育ててきた花は、最期まで大切にされていると勝手に思い込んできたからだ。
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