マドンナリリーの花言葉

「いいじゃない。だって考えたら、夜会にわざわざ侍女を連れていっても、立場上、控室にこもりっきりになるだけよ。むしろ、親戚の娘を連れてきたというほうが格好が付くと思うのよ。その美貌なら、夜会で浮くこともないし」


もっとぎょっとするような発言をされ、ローゼは一気に青くなる。
メラニーが止めてくれるはず……と期待を込めて視線を送ると、メラニーも真顔になって考えている。


「まあ確かにそうですね。……では」

「えっ、あの、メラニーさま?」

「おとなしくして。たしかに、私もあなたはもっと綺麗になるはずって思っていたのよ」


メラニーの瞳がきらりと輝く。ああ、メラニーさまは心底髪結いや裁縫が好きなのだと、ローゼは思い知らされた。
あれよあれよという間に、エミーリアのドレスを着せられ、髪は細かに編み込まれ、自作だという髪飾りで飾られる。


「ほら、やっぱり綺麗」

「か、勘弁してくださいませ」


たしかに鏡に映るローゼは貴族の令嬢のように美しく気品がある。しかしローゼは、見た瞬間に背筋に冷水をかけられた気持ちになった。鏡の中にいるのが、パウラ夫人のように見えたからだ。


(やっぱり似てる。……でもそんなわけない。ママは私が赤ん坊の時のことだって話してくれたもの。パパだって。……私はあの農園の娘よ、絶対に)


難しい顔をしているローゼに、エミーリアが笑いかける。


「礼儀作法をきちんと覚えて、出席者として出ましょうよ。大丈夫、私の親戚筋の娘ですと言えば詳しくは聞かれないし。言い寄ってくる男たちは私が追っ払ってあげるから。おいしいものが食べられるわよ」

「む、無理です。しかも第二王子が主催の夜会と聞きました。そんな恐れ多いことできません!」

「第二王子だから大丈夫よ。クラウス様は結構いたずら好きだもの。いざとなればお兄様が助けてくれるし」

「た、助けて……」


エミーリアが言い出したら、大抵のことは通ってしまう。
ローゼはその後散々反対したが、途中でやって来たフリードにまで「いいんじゃないか」と言われてしまい、もう何も言えなくなってしまった。
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