マドンナリリーの花言葉


 ディルクは草のにおいを嗅ぎながら馬を進めた。
いつものようにマドンナリリーの花束を抱え、かつての墓地へとやって来る。

両親と妹に手向ける花は、いつも屋敷に届けられる花から適当に選んでいた。
けれど、三年前からは百合の花があればそれを選んでいる。

父という愛人を持っていたというのに、いまだ高齢の子爵の後妻に収まったままの図太い女。それだけで聞けば官能的な雰囲気を漂わせていてもいいのに、彼女は驚くほど清純にみえる。
圧倒的な存在感と清純さと蠱惑的な魅力を兼ね備えた花――それがディルクにとっては百合であり、パウラ夫人のイメージだった。

正直、ディルクは彼女に対しての態度を決めかねていた。

侍女のゾフィーは、パウラと男爵は愛人関係ではないと言ったが、状況から考えれば、通常以上の関係があったのは間違いない。何と言っても夜中にふたりで馬車に乗っていたのだから。

それが、父が持ち掛けたものなのか、彼女のほうから持ち掛けたものなのか。それによっても対応を変えねばならないだろう。

一番分からないのは彼女の夫であるアンドロシュ子爵だ。

継承戦争の英雄の家系だが、誇れるのはそれだけと言われるほど無能な男。なにをやらせても特筆して秀でたところがないため、官職に追いやられ、今じゃ領土に籠り過去の遺産で金貸し業のようなことをしていると聞いている。

息子が王宮に出入りしているのを見たことがあるから、実権はほぼそちらに移っているのだろう。

彼が、年の離れた妻の浮気をどう思っていたのか。
他の男と夜な夜な密会していたのを知って、どうして今も離縁せずにいるのか。
考え出せば疑問しか湧いてこない。

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