マドンナリリーの花言葉
それは、ディルクも最近気づいたことだ。
フリードが領主となり、側近としてディルクも領内貴族とは顔を合わせるようになった。特に領内の活発に活動する貴族とは頻繁にあちこちの夜会で出会うことも多い。
しかし、アンドロシュ子爵はクレムラート家に挨拶に来ることもなく、夜会を催しても来るのは子息のエーリヒだけだ。エミーリアも子息夫人とは交流を持っているようだが、パウラの存在には全く気付いていない。
「ドーレ男爵はエーリヒ様と一緒にお仕事をなさっていた時期があります。その時に出会われたんでしょう」
「エーリヒ様と?」
「ええ。お年頃も一緒ですから。……今日はこれで失礼いたします」
ゾフィーは頭を下げて、そそくさとその場を立ち去ろうとする。
「待て」
ディルクが強い口調で言うと、ゾフィーは足を止めゆっくりと振り向く。
「……ひとつ聞きたい。パウラ夫人には本当に子はいないのか?」
ゾフィーは顔をこわばらせ、さっと俯いた。次に顔を上げた時には痛ましい表情になっていた。
「一度だけ死産の経験がございます。それに関しては追及しないでくださいませ。奥様がおかわいそうですから」
「しかし、……あっ」
もう話は聞かないとばかりに、ゾフィーは馬車へと駆け出して行った。
協力してほしい、という割には情報をくれるわけでもない。ゾフィーを協力者として信頼する気になれないのはそのせいもある。
すっきりしない気分が胸の内に残り、ディルクは苦虫を噛み締めた。