【短編】Ｒａｉｎ

Ｒａｉｎ

───「花。彼女できた」


ほんの数秒前、目の前にいる彼がいつもと変わらない表情でそう言った。私は、その言葉の意味を理解するのにコンマ数秒は時間がかかった。

突然、胸がぎゅうっと締め付けられた。わけも分からないくらい苦しくなって、目頭が熱くなる。それが、言葉の意味を理解した瞬間だったと思う。


「あ……え、そうなんや。良かったやん！安心したわ」


今にも涙が溢れ出しそうな熱い目頭に力を入れながら、口角を無理やり上げた。

まるで言葉を知らない子供みたいに、私は心にもない「良かった」という言葉だけをただ並べて繰り返した。


「せやから、今日から一緒に帰れへんくなるけど……」

「あ、うん！大丈夫、大丈夫。せっかく付き合えることになったんやから遠慮せんと帰り！」


せっかく恋が実ったというのに、複雑に、申し訳なさそうに、私のことを気遣ってくれる彼。私は、そんな彼に精いっぱいの笑顔で返事を返した。