【短編】Rain
那智に恋人が出来てしまってから、ようやく一ヶ月が経とうとしていた頃。私は、一人玄関口である人を待っていた。
あの日以来、私は那智とはあまり一緒にいなくなった。那智と一緒にいると苦しくて、息が詰まったからだ。
彼がいなくたって、ずっと彼のことを考えていた。やり場のないこの気持ちをどうすればいいのか、ひたすらに考え続けて、私はようやく答えを出したのだ。
また、今日もどしゃ降りの雨。それを眺めながらぼうっと突っ立っていると。
「悪い。待たせた」
そう言って、私が待っていた人。那智が現れた。
「ううん。こっちこそ急に呼び出したりしてごめん」
恐らく、委員会の仕事を終えて走ってきたのであろう那智の癖っ毛な前髪がぴょんと跳ねている。私は、そんな姿にすら脈を打つ胸を必死に抑えながら平静を装った。
「話って?」
那智が、首を傾げた。
「うん。あんな、」
那智に言いたいことあんねん、と消えてしまいそうな声で呟く。その声は届いていたらしく、彼は「うん。何でも聞いたるわ」と笑って頷いた。