【短編】Rain
今まで、那智に想いを伝えようとしたことは何度もあった。だけど、私はたったの一度だって彼にこの気持ちを伝えたことはない。
一年前、クラスメイトの女の子から「瀬川くんが花ちゃんのことを好きらしいよ」という話を聞いたことがあった。
その噂が本当なら、と何度も気持ちを伝えようとした。だけど、もし、その噂が無実で那智との関係が無くなってしまったら、と思うと怖くて動けなかった。誰よりも大切な人だから、絶対に失いたくなかった。
だけど、やっぱり〝友達〟のままじゃあ、ずっと一緒になんていられるわけないか。
「……花、」
優しく私を呼ぶ声が、ガラス窓を強く打ち付ける雨音で掻き消されそうになる。
もう、そんな優しい声で呼ばんといてよ。
そう言って突き放してしまいたい。だけど、それもできない。彼は、私にとって特別だから。