【短編】Rain
ほんの数分、玄関口で彼と話した。それだけだったけど、私はなんとなく、彼のことを好きになりそうな予感がしていた。いや、ひょっとしたらもう既に好きだったのかもしれない。
そんな私に、彼は「傘、しゃあないから入れたろか?」と言って笑う。
彼の言葉に甘えることにした私は、彼と一緒に肩を並べて歩き出した。
さり気なく私の方に傘を寄せてくれる彼の右肩が雨に濡れていることを気づいていた私は、私が面積を取りすぎないようにと左側に寄る。だけど、私が左に寄れば、また彼は傘を左に寄せ、傾けた。
「ちょ、何でそんなそっち寄んねん。濡れるやろ」
こっち来い、と私に指示する彼に私は「何でよ!瀬川くんが濡れるやん」なんて言って傘を無理矢理右に傾けた。
「ごちゃごちゃうるさいねん!はよ入れ!アホか!」
何度も言い合いをしていると、さすがに腹を立てたのか何なのか、彼はそう言って私と距離を詰めた。私の右肩に彼の左肩が触れ、不覚にも私の胸は大きな脈を打った。