【短編】Rain
「もっと良い言い方あるやん!こんなシチュエーションやのにムードのカケラもない」
何度も触れては離れる肩が熱を帯びるような感覚になり、照れ臭くてそっぽを向く。
身体が雨に濡れて冷たいはずなのに熱くて、私は左手で風を仰いだ。
「花は、雨に濡れたら枯れてまうやろ。……とか?」
一瞬、ドキッとしてしまった。私の名前を呼ばれたと思ってしまった私の顔は段々と熱くなった。
「え、何それ」
「何それ、ってなんやねん!名前の花と植物の花かけてロマンティックなこと言うたったんやろ!」
照れ臭そうに顔を赤くする彼に、私は心底驚いた。彼が、まさか私の言った冗談を間に受けてロマンティックな事を言ってくれたこともそうだけれど、何より、私の下の名前を知っていたこと。それが一番に驚いた。
「え、花って雨に濡れると枯んの?」
「枯るというか、まあ、傷みやすくはなるらしいで。……って、いや、つっこむとこそこちゃうやろ!」
また、照れ隠しで私がした質問に彼は真面目に答えてノリツッコミをする。そのあとは沢山二人で笑って、肩を並べながら家路を歩いた───。