純粋乙女の恋物語
高校へは毎朝長田家の車で送迎してくれる。


ほんのわずかだけど、学校に着くまでの間後部座席で並んで座ってお話する時間が私のささやかな幸せ。


「お兄さま、今日の放課後のお迎えは大丈夫よ」

「おや、補習でもあるのかい?」

「違うわ! ちょっとお買い物に行きたいの。銀座の百貨店辺りに」


私の通う学校は、良家の子女が集まるお嬢様学校だけれど、お友達の中には放課後銀座に繰り出したり、喫茶店や映画館に通ったりと自由に過ごされる子がいる。


学校と家の往復だけの私は、それが無性に羨ましかったのだ。


「女性が一人で街に繰り出すのは、僕は反対だ。変な輩に絡まれたらどうする」


しかし、お兄さまはいい顔をしなかった。


「大丈夫よ。小学生の頃山猿と呼ばれた私よ。誰も相手にしないわ」


胸を張って得意げに言うと、お兄さまは片眉を下げて困った風に笑った。


「そんなに行きたいなら、休日僕が連れて行ってあげよう」

「いいの?」

「早苗ちゃんの希望はなんでも叶えてあげる」

「ありがとう。お兄さまとお出掛けなんて嬉しいわ!」


私は思わずお兄さまの肩に抱き着いてしまった。


当日おろしたてのワンピースで行こうかしら?
母が入学祝いで買ってくれた香水を付けてみようかしら?


私はすっかり休日のことで頭がいっぱいになっていた。
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